【作家さんインタビュー】1巻緊急重版2巻も売上好調の『魔術破りのリベンジ・マギア』の子子子子先生に聞きました!(後編)
前回から、初の試みとして『魔術破りのリベンジ・マギア』の著者、子子子子先生のインタビューの様子をお伝えしております。前編記事はこちら
後編では、既に『魔術破りのリベンジ・マギア』を読んでいただいている方向けに、ネタバレありで、より深く作品に切り込んでいきたいと思います。
作家志望の方向けのメッセージや、アドバイスも沢山いただきましたので、必見ですよ。それではよろしくお願いいたします。
■作家子子子子 子子子先生について詳しく
作家を志したきっかけについて教えてください。
昔からラノベや美少女ゲームが好きで、自分で物語を妄想したことはありましたが、作家になろうとは思っていませんでした。小説を最後まで書き上げることは、"選ばれた人間だけが持つ高等スキル"だと思っていたので、自分なんかにできるわけが無いと思っていたのです。
ただ、勤めていた会社がブラックで、このまま終わるのは嫌だ、やりたいことをやってみたいと思ったことをきっかけに、時間の取れる会社に転職して執筆を始めることになりました。ちょうど3年位前のことでした。
転職して執筆活動をはじめるにあたって、不安などはありませんでしたか。
はい、多少不安もあったので、転職期間中に必ず1作は書き上げると決意しておりました。その作品を無事完成させられたことで自信がつき、不安はなくなっていきました。なんだ、できるじゃんって。
それからは、作品を作るごとに、どんどん自信を持って執筆活動に励むことができるようになりましたし、一定のペースを守って執筆し続けることができるようになりました。
その後は、働きながら書き続け、投稿を続けました。やっぱり最初の1作目を完成させられたことが、今も執筆を続けられている要因になっていると思います。
ちなみに新人賞に応募しはじめたのはいつぐらいからでしたか? また「小説家になろう」などへのWEB投稿はしていましたか?
2年くらい前からです。WEBには手を出しませんでした。評価シートがもらえるところを中心に、印刷して応募していました。各レーベルごとに特徴があるので、新人賞受賞作品を読んで研究したり、レーベルに合わせて対策を練ったりもしていましたね。
『魔術破りのリベンジ・マギア』では、魔術に対する卓越した知識が窺えるのですが、大学等で魔術を研究したりといった経験はありますでしょうか?
いえ、学術的な意味で、魔術の研究をしたことはないですね。魔術に関する知識は、ラノベとか美少女ゲームとかで、気になる単語や、かっこいい呪文の元ネタを調べていくうち、詳しくなっていった感じです。中学高校くらいから徐々に興味を持ちはじめ、社会人になった頃には、専門書を買うまでになっていました。
■作家転身後の変化について
次に、作家になってからの変化はありましたか?
大きな変化はあまり感じないですね。ただ、前編でも言ったとおり、休日を全部執筆活動に当てるようになりました。作家になる以前は、適度にまとまった休みを入れていたのですが、今は作品に全力投球ですね。
あとは、魔術関係の専門書を躊躇なく買うようになりましたね。結構高いものが多いので、以前までは厳選したものを買っていました。
ストイックですね。"先生"と呼ばれるのには慣れましたか?
全然慣れません(笑)。あまり呼ばれませんし、友人たちにたまにからかわれるくらいです。ただ、作家さん同士で会う時は自然とお互いに先生と呼びますね。
なるほど、作家になってから業界人と関わることは増えた感じでしょうか。
言われてみればそうですね。意識的にはそんなに感じていませんでしたが、作家さん同士の集まりだったり、諸々の集まりに呼ばれることは増えました。物理的には、結構変化があったように思います。
これは答えられたらで良いのですが、大賞賞金や印税の使いみちとかって、聞いてもよろしいですか。
そうですね。今までしてこなかったので、両親への親孝行的なことで、ほとんど使ってしまいました。残りも、資料を書くことにつぎ込んでしまいましたね。あとは、授賞式に着ていくためのスーツを買ったくらいでしょうか。
ありがとうございます。改めて、非常に立派な先生だと再確認できました。
■作品の作り方について
『魔術破りのリベンジ・マギア』で最も力を入れられた魔術について、設定資料を国立国会図書館まで行って集めたという話もお聞きしましたが。
そうですね、資料については絶版が多くて、ネット書店やオークション等で集めています。特に「魔女の家BOOKS」という出版社さんが希少な魔術書の翻訳をしているのですが、すぐ絶版で入手不能になるんです。それで、国立国会図書館のお世話になりました。
魔術系に興味のある人にオススメの勉強法があったら教えてください。
導入としては、ラノベとか美少女ゲームとか、エンタメ系に落とし込んだ作品を楽しむのが良いと思います。そのほうがわかりやすいですし、何より専門書を買うよりも安いです。
『魔術破りのリベンジ・マギア』とかが導入書としてオススメですよね。
はい(笑)
エンタメに加工された作品を読んで、興味があるキーワードが出てきたら、まずは「〇〇大全」とか「〇〇辞典」のような、知識が広く浅く書かれている本で調べていくのが良いと思います。それで満足できなかったら、巻末の参考資料を見て、専門書を買っていく形でしょうね。
続いて、作品に使う呪文を選定する基準とかってあったりしますか?
基本的には、元ネタのバックボーンと物語が合致するかを見て選んでいます。『魔術破りのリベンジ・マギア』で言うと、魔女裁判のあたりとか、元ネタがカチッとハマれば作品に活かすことができますし、世界観を深めることもできます。
不動明王の火界呪や、不動金縛などもそうですよね。基本的にはストーリー内容から逆引きしていく感じでしょうか。
はい、作品に合致するかを考えて、そこから逆引きして選んでいます。実際の効果と物語での効果が一致することが一番大事ですから。その点、"陰陽道"の呪文は使い勝手が良いですね。防御系だったら結界を張ったり、戦闘系だったら火界呪使ったり、呪文の汎用性も高いです。
逆に、気に入った呪文を作品に入れ込んだことはありますか。
あります。響き重視でいれたものもありますね。ただ、そういった時は、エンターテインメント性を優先することに気をつけて、アレンジしています。いくらかっこいい呪文でも、文献から引っ張ってくるだけでは資料集と変わらなくなってしまうので、ライトノベルというフォーマットに最適化することを考えて、取り入れています。
例えば、「兎歩の法」は、本来事前にゆっくりとやるものですが、物語のスピード感に合わせて、戦闘中にテンポよく出せるように工夫しました。
呪文詠唱や設定は、物語の大切な構成要素ですが、長くなりすぎたり、まどろっこしくならないようにしています。
■小説を書いている方向けのメッセージ
小説を書く際、気を配っていることがありましたら教えてください。
まずは、どんな作品を目指すかコンセプトを決めることを重要視します。
『魔術破りのリベンジ・マギア』を例に上げると、学園異能の王道でハーレムモノというコンセプトがあって、それに沿った世界観を作り、さらにキャラを作って、物語を作る。という順番で、作品を作っています。
設定重視の書き方をされている感じでしょうか。
設定重視と言うか、作家さんには、直感タイプと理論タイプがいると思っていて、それでいくと自分は理論タイプになると思います。まず設定を作って、面白いと思ったアイディアを後からいれていくタイプですね。
ちなみに、アイディアがパッと出てこない時、詰まってしまった時に工夫していることってありますか。
そういう時は思い切って飛ばします。こだわると延々と完成しないので。アマチュア時代、ある先生が「できないところは飛ばして書け」というニュアンスのことを言っていて、それを実行していました。
やっぱり人間にはモチベーションがあるので、延々と悩んでいると、沈んでしまいます。ただ、空白を埋めていくと、徐々に作品が完成していくような気持ちになって、できてきてるじゃんって、モチベーションにつながるんですよ。
なので、書き終わったらちょっと戻って、もうちょっとだけ書いてまた駄目だったら次行こう、って常にどんどん先に行くことが重要だと思います。あとで辻褄が合うか心配になることもあるかと思いますが、そういう時は先のシーンを早く書いて、帰ってくるようにしてみてください。
プロットや構想はできているのに、なかなか完成させられない方向けにも一言お願いします。
短編でも長編でもかまわないので、1つの作品を完成させてほしいです。自分もかつて、選ばれた人間しかか書けないと思っていたぐらいなので、小説を完成させるハードルって非常に高いと思うのですが、1つ完成させる成功体験が自信へとつながり、苦しいときや詰まった時に後押しをしてくれます。
コンスタントに作品が書けるようになるためには、ひたすら成功体験を積み重ねていくしか無いので、とにかく1作目を完成させてみてください。
成功体験を積み重ねる上で、たくさん書くことが大事ってことですね。
そうですね。それと、これは周囲の環境にもよりますが、書いた作品を沢山の人に読んでもらうのが良いと思います。自分で書いた作品は、どこにも出さないとただの妄想でしかないので、誰かに読んでもらって感想を聞いて、初めて物語を1つ完結させたことになると思います。
自分の作品に対する反応を見ることが、ある種、作家業の喜びの1つなので、アマチュア時代からそれを体験しておくと、やる気にもつながると思います。
■キャラクターについて
本作では魅力的なキャラクターが登場しますが、キャラクターを書く上で、必要なこと、意識していることはありますか?
以前シナリオの教本にも書いてあったのですが、キャラの属性をしっかり理解することが重要だと思います。キャラクターをお弁当のおかずに例えてみると、わかりやすいです。
唐揚げが好きだからって、唐揚げばかりいれれば良いものではありません。野菜があって、漬物があって、という風にバランスの良いお弁当のほうが良いですよね。
同じように、ツンデレが好きだからってツンデレばかり登場させるとバランスが崩れてしまいます。これは、自分で自分のキャラの属性を理解していないとできないことなので、メインヒロインの属性を決めて、次にサブヒロイン、そしてモブキャラと属性を当て込んでいくのが私のやり方です。
私は理論派タイプなので、全体のバランスを見て、トータルで美味しいお弁当を目指して作品を作っています。同じ作家さんでも、感覚派の方は、最高の唐揚げを押しにして、メイン特化型で勝負する方もいますね。
キャラクターの配分を決める時に参考にしたものはありますか。
参考にしているのは、ゲームなどのシナリオです。シナリオは完結ものが多いので、キャラ配置にすごく気を使っているようです。美少女ゲームだったら、幼馴染、妹、お姉さんとかキャラクターが各属性満遍なく揃えられていますよね。
この考え方は、ラノベにも導入できると思っていて、理論派には参考になるのではないかと思いました。
本作ではかなり特殊な主人公を扱っていますが、書く上で苦労したことなどありますか?
女装主人公のことですね。私自身も苦手でしたが、ある作品に出会って、好きになったことは前編でも述べたと思います。好きな作品に出会って、なんで女装主人公が苦手だったかも分析することができました。
女装主人公ってマイナーなジャンルですよね。
はい。女装したいなんて普通思わないので、読者は女装主人公の行動原理が理解できず、拒否感を抱いてしまうことが多いのです。なので、女装しなければならない理由を用意して、嫌悪感を減らす努力をしました。
これは特殊な主人公を書きたいと思っている方にも応用ができる工夫になると思うのですが、少しお話をしてもよろしいでしょうか。
はい、よろしくお願いいたします。
主人公を書く上で、読者と主人公をカテゴライズすることが重要だと思っています。
①作品に自分を投影する投影型
②作品を俯瞰して覗き見る俯瞰型
③読者が共感を覚える共感型
④理想の人物として読者に尊敬される尊敬型
基本的には、どっちか片方という感じではなく、複合した要素を持っています。①投影型の読者にとっては、③共感型の主人公と相性がいいですし、②俯瞰型の読者にとっては、④尊敬型の主人公と相性がいいです。
今回の女装主人公は、読者に理解されづらいので共感型ではなく尊敬型に寄せていきました。そして、主人公が女装する動機をプロローグで語り、早期に理由を明かすことで、読者に受け入れやすい、尊敬型の主人公として成り立つように気をつけました。
これは、何も女装主人公だけではなく、物語全般に言えることだと思います。上記のようなことをうまく利用すれば、尖った主人公に応用できると思いますので、読者と主人公を一度カテゴライズしてみることをおすすめします。
貴重なアドバイスありがとうございます。ところで、ファンの声で印象に残ったものはありますか。
「孤狼丸」が活躍するところが見たいという声が多かったです。元々書きたいと思っていたのですが、2巻では「土御門晴栄」と「孤狼丸」の見せ場を作りました。あそこでは、「鴨女」の挿絵もいれてもらいましたが、プロット書いてる段階から、イラストの伊吹のつ先生にお願いをしていました。伊吹先生ありがとうございました。
基本的に感想には、全て目を通しております。詰まったときや、苦しいとき、ツイッターやブログの感想を読んで、モチベーションにつなげていました。みなさま、ありがとうございました。
■今後の物語の展開、見どころについて
あとがきにも記載がありましたが、当初2巻では学園内のお話を考えられていたそうですね。
はい、投稿時は漠然と、学園内での事件を想定してたのですが、担当編集さんに、2巻出すなら、学園の外に出てほしいと言われました。それはそれで面白そうだったので、意識して書きましたね。
ちなみに差し支えない範囲で構いませんが、3巻で出そうとしているものとか決まっていますか。
うーん。それはあまり言えませんね。ただ、「黄金の夜明け<ゴールデン・ドーン>」は出したいと思います。やっぱり現代魔術と言えば、「ゴールデン・ドーン」なので。世界観としては、まだまだ広がっていくと思いますよ。
なるほど。気になる3巻の展望や、見どころポイントを教えてください。
やっぱりこの作品のキモは、世界観だと思っています。これまでと同様、古今東西の様々な魔術が登場するので、自分の好きな魔術が登場するか、楽しみにして読んでもらえればと思います。
また、呪文詠唱は毎回全力投球しているので、今回はどんな詠唱が来るのか楽しみにしていてほしいですね。
ちょっと蛇足ですが、作家さんを目指している方、特に、独自の世界観の構築や、呪文詠唱をいれてみたいと思っている方は参考になる部分が多いと思います。
■野望について
今後の野望について教えてください。
とりあえず、『魔術破りのリベンジ・マギア』が大団円のエンディングを迎えるまで刊行したいですね。
20巻ですか? アニメ化ですか?
いやいや(笑)もちろん、そこまで行ったらうれしいですが、そこまでは望みません。でも、アニメ化したら、魔術バトルとか、エフェクトガンガン効かせて、描写してほしいですね。
なるほど。億ション買うとかそういう野望はどうでしょう。
そうですね(笑)とりあえず、がんばって専業作家になりたいです。
■告知
最後に告知があればお願いします。
『魔術破りのリベンジ・マギア』HJ文庫から1巻、2巻が好評発売中です。コミカライズも決まりましたので、今後ともよろしくお願いいたします。
また、第12回HJ文庫大賞がちょうど10月31日消印有効なので、作家志望の方はどしどしご応募ください。その際『魔術破りのリベンジ・マギア』もぜひ。参考になるかもしれませんよ。
いかがだったでしょうか。後編では、既に『魔術破りのリベンジ・マギア』を手に取っている方向けに、作品の魅力、これからの展開をお伝えいたしました。また、作家志望の方向けにも、様々なアドバイスをいただくことができました。
子子子子先生、HJ文庫編集部さま、改めまして、インタビューにご対応くださり、ありがとうございました。
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